縄文時代、日本列島でたくさん作られていた素焼きの人型縄文土器。
それは土偶(どぐう)と呼ばれています。
面白いカタチしてるけど、人形?縄文人はなんのために作っていたの?
それが、土偶の正体や使用目的はずっと不明のままでした…。
ところが、新たに柔軟な視点で土偶の正体を解明した本が話題となりました。
竹倉史人氏の『土偶を読む』において、
土偶は当時の縄文人が食べていた植物をかたどったフィギュアである
【土偶を読む】竹倉史人著:(株)晶文社
という主張をしたのです。
植物!?その発想はなかったわ!
土偶を植物として表したとすると、これまでの謎がひとつに繋がったのです!
竹倉氏の新説・土偶は植物であるという主張から、これまでの古代の信仰や神話などが繋がりました。
そして、トンデモ説なんて思えません。
縄文人の目線に立ってモノを見ることができる人間にだけ理解することができる、
『縄文人の生命に対する世界観』が本当に素晴らしいという私の見解をお伝えしたいと思います。
土偶とは?その正体は植物
土偶とは、粘土を焼いて作った人形のことをいいます。
日本全国で出土していますが、特に多いのが縄文中期から晩期にかけて
主に東日本の方で出土されています。
出土する場所は貝塚といわれる廃棄物エリア(ゴミ捨て場)からで、そこには何代にも渡って同じ場所に重ねられていき山のような盛土となっていきました。
そこは土偶だけでなく動物の骨、貝殻、土器類、装飾品、そして人骨までも同じ場所に埋められていたようです。
土偶はなぜか一部壊れていて、その他はバラバラな姿で出土したものがほとんどなのです。
ちなみに土偶の出土数ナンバー1は岩手県!遮光器土偶の7割は岩手で発掘されています。
旧説・土偶は妊娠した女性
日本考古学史上の最大の謎とされてきた土偶の正体ですが、一般的に認識されている説やトンデモ説は以下のとおりです。
- 妊娠した女性
- 地母神
- 宇宙人
- アラハバキ神像
土偶は乳房や膨らんだお腹を強調しているフォルムが数多く出土していることから、
女性や妊娠中の女性を表現している、という見方が主流となっていました。
ものすごい肉付きの良い土偶で、国宝となった縄文のヴィーナスなんてのもありますね。
また、無事妊娠・出産への願いだけでなく女性性の生み出す力を神聖なものととらえていたことから、※地母神像という見方もあります。
都市伝説でよく語られるようになったのは、遮光器土偶など人間離れした風貌から宇宙人説。
【東日流外三郡誌】という古史古伝では、遮光器土偶を古代東北のアラハバキ信仰のご神像であるという記述から、
遮光器土偶=アラハバキというイメージが定着してしまっています。
(※東日流外三郡誌は偽書といわれています…)
\※地母神についてはこちらの記事で/
新説・土偶は植物のフィギュア
『土偶を読む』の著者・竹倉氏は、土偶のそのまんまの見た目から植物を写実的に表現していることに気がつきました。
人間離れしている風貌にもかかわらず、手足がついていることで人間に近い関連するモノという発想から抜け出せなくなっていたのかもしれません。
クリ、クルミ、トチノミ、ドングリ、ヤマイモ、サトイモ、ユリ根、ワラビ、ゼンマイ、ヒエ・ソバなど
【※その他動物性主要食】
アサリ、ハマグリ、シジミなど
この縄文人の最も重要な食糧を精霊としてカタチ作ったのが土偶の正体です。
以下、有名な土偶を例としてあげます。
【ハート形土偶はオニグルミの精霊】
ハート型土偶は、オニグルミを割ったカタチとよく似ています。
遺跡から出土する食物のなかで、クリ・ドングリ・クルミなどのナッツ類が1番多いのです。
それは、長く保存がきくため縄文人の最重要の食糧だったといえますね。
【遮光器土偶はサトイモの精霊】
まさか遮光器土偶とサトイモがつながるとは、ビックリ仰天です。
もはや頭の葉や手足のフォルムが、サトイモにしか見えなくなりました。
日本でサトイモが広まった時期が実は古く、稲の伝来より早かったそうです。
野生もしくは栽培をしていた可能性があり、重要な食糧だったことでしょう。
現代でも、作物を擬人化した『ご当地のゆるキャラ』などが土偶と同じ発想になりますよね。
深谷市のふっかちゃんとか、北上市の二子いも丸とかね
土偶はなんのためにつくったのか
縄文人はなぜ植物を模した人間風の土偶をつくっていたのか。
土偶などが特定の場所から大量に出土することから、そこでは呪術的な祭祀が行われていた特別な場所であった可能性があります。
これまでの定説だと土偶の用途は…
- ★身代わり
-
身体の悪い部分を身代わりに壊し、回復を願ったもの
- ★安産祈願
-
妊婦の安産を願ったもの
- ★豊穣祈願
-
出土品の多い時期が、食物の豊かな地域にかたよっていたので豊穣を願ったもの
上記の説だと、土偶が植物をかたどった姿だとすると『豊穣祈願』としての用途が当てはまります。
神話とアイヌ文化
世界各地にある類似した神話と、現代に伝承されているアイヌ民族の民間信仰をつなげると
縄文人が作った土偶が
- なぜ女性の身体なのか
- なぜ植物を擬人化したのか
- なぜ壊されていたのか
この3つの謎が解明します。
ハイヌウェレ型神話
世界にはたくさんの神話がありますが、食物起源の神話の型式のひとつに【ハイヌウェレ型神話】というものがあります。
主に東南アジア・オセアニア・中南米・アフリカで語られています。
このハイヌウェレというのは、ドイツの民俗学者:アードルフ・イェンゼンが典型例としたインドネシアのセラム島のヴェマーレ族に伝わる神話に登場する女神の名から命名したようです。
おおまかな内容は以下のとおりです。
ココヤシの花から生まれたハイヌウェレ(「ココヤシの枝」の意)という少女は、様々な宝物を大便として排出することができた。あるとき、踊りを舞いながらその宝物を村人に配ったところ、村人たちは気味悪がって彼女を生き埋めにして殺してしまった。ハイヌウェレの父親は、掘り出した死体を切り刻んであちこちに埋めた。すると、彼女の死体からは様々な種類の芋が発生し、人々の主食となった
ハイヌウェレ型神話 – ハイヌウェレ型神話の概要 – わかりやすく解説 Weblio辞書
この神話が残る地域ではイモ類を栽培・主食としている地域のため、
アードルフ・イェンゼンはこのような民族は原始的な栽培文化をもつ『古栽培民』と分類したそうです。
現代でも世界のどこかで生贄の儀式が残る地域では、
動物の肉の一部みんなで食べて、残りを畑に埋めるという風習があるようです。
これはハイヌウェレ型神話の名残りともいえますね。
これは切った種芋を土に埋めて再生し、食物が得られることが背景にあるともいわれています。
ハイヌウェレ型神話のポイント
・少女を生き埋めにして殺す
・死体を切り刻んで埋める
・死体から主食となるイモ類が生まれる
日本神話(オオゲツヒメと保食神)
日本神話の、古事記と日本書記にそれぞれに似たような食物起源の物語があります。
荒くれ者のスサノオは高天原を追放されました。
お腹が空いたスサノオは、オオゲツヒメノ神に食べ物をお願いします。
するとオオゲツヒメノ神は自分の鼻・口・尻など身体中の穴から食物を出して
スサノオにご馳走をふるまいました。
それを見たスサノオは、汚らわしいと怒りオオゲツヒメノ神を切り殺してしまいます。
すると、オオゲツヒメノ神の死体から稲・栗・麦・小豆・大豆などの穀物が出てきました。
そしてこれが五穀の始まりとなりました。
スサノオの意味不明な行動とオオゲツヒメの謎な生体に、???な日本神話ですが、似た話しがもう一つあるのです。
高天原にいるアマテラスは、ツクヨミにウケモチノカミを見てくるように命じます。
ツクヨミが訪れると、ウケモチノカミは口から飯・魚・獣を出してたくさんのご馳走でもてなしました。
しかしそれを見たツクヨミは、「口から出した汚いもの食わせるなんて」
と怒りウケモチノカミを切り殺してしまいました。
それから、ウケモチノカミの死体から牛馬・栗・蚕・稗・稲・麦・大豆・小豆などが出てきます。
それらは食物の種となりました。
オオゲツヒメと保食神(ウケモチノカミ)はどちらも切り殺された後に、五穀をもたらした神というのが共通しています。
おなじみの全国の稲荷神社のご祭神として祀られている、『ウカノミタマノ神』も同一神といわれています。
日本神話のポイント
・女神が身体の穴から食物を出す
・汚いと言われ切り殺される
・死体から五穀が生まれる
アイヌのカムイ
古代の日本では、自然物には魂(精霊)が宿ると考えるアニミズム信仰が主流でした。
その縄文時代からの、伝統的な文化を受け継いでいるのがアイヌ民族ではないかといわれています。
\蝦夷も縄文文化を持った人々でした/
アイヌの基本的な精神はカムイからきています。
火や風・自然・動植物・人が作った道具などもカムイと表現をします。
カムイは動物の皮を被って、アイヌモシリ(人間界)に現れると信じられています。
人間の力が及ばないもの・人の役に立つものをカムイとし、畏敬の念を持って良い関係を保つことを重要視していました。
神々に祈りを捧げる儀式を『カムイノミ』といい、それはカムイからの贈り物である動物の骨や毛皮などをカムイモシリ(神界)へ返す『送り』の儀式なのです。
なかには道具が壊れたり不要になった時も、特定の場所へ埋めてイナウを立ててお神酒を供えて神の世界へ『送り』ます。
その際、壊れていない道具はわざと壊して送るそうです。
アイヌの信仰のポイント
・人間に関わるすべてのものがカムイ
・カムイへの感謝と魂を送る儀式がある
・壊れた道具を埋めて魂を送る儀式がある
縄文人が土偶に込めた願い
食物起源の神話などから、土偶に込めた縄文人の願いがイメージできるようになりました。
なぜ女性の身体なのか
古代の信仰に、大地の生命力や生産能力を神格化したものとして地母神信仰があります。
別の見方では『死と再生の女神』といいます。
土偶が女性や妊婦のカタチが多いのは、生産能力にあやかり豊穣を願っていたのでしょう。
なぜ植物を擬人化したのか
植物の精霊が人のように手足があるのは、再生をもたらすのは大地の女神を根源としているからです。
それと習合して、特定の植物への感謝と再生を願った姿をそのまま分かりやすく表したのでしょう。
なぜ壊されていたのか
食物起源の神話から見てとれるように、土偶の女神を壊してバラバラにして埋めることで、
新しい生命が生まれることを願ったのでしょう。
また、人骨や動物の骨・道具なども同じ場所に埋めていたことから
アイヌの『送り』の儀式のルーツといえる可能性があります。
土に還すことで魂を送り出し、新しく生まれ変わることを願っていたのかもしれません。
今でも針供養ってあるし、日本人ってモノにも魂が宿るって考えがあるからね
これらから、縄文人の思想とは
自然のもの自然からつくった道具も、すべて神(自然)からの贈りものである。
死んだら土に還して神(自然)へお返しする。
そして再生を願い、すべての生命が循環することをポリシーとしている。
人間は自然の一部に過ぎないし、地球上のすべては同列であり平等である。
↑このような世界観だったのではないでしょうか。
このような思想を持っていたから、戦争もなく平和な縄文時代が1万年以上も続いたわけですね!!
むしろ自然の一部のように生活していた縄文人は、植物の精霊が見えていたのかもしれません。
●縄文人が見た精霊の姿をそのままカタチつくったのが土偶でした
というトンデモ説を私の提唱としておきます。
\土地神へお返しする物語です/
土偶の正体がわかった今後
平和思想な縄文時代も、稲作の伝来と共に土偶もつくられなくなり、弥生時代へと移行していきました。
最期の土偶といわれる縄文晩期のものといわれる【結髪土偶】は稲の精霊を表していると竹倉氏はいいます。
稲作が始まったおかげで、食物を人間が必要とする以上のストックを抱えることが出来るようになり、多く持つ人が支配者となっていきました。
それは所有をするという意識が、失う不安を持つようになり人間同士が敵対してしまうことに繋がります。
「地球上のすべてのものが神からの贈り物であり、役わりを終えたら自然に返し循環し再生させるという意識を持つこと」
それが万物が心豊かに、幸せに生きることができる条件だと思います。
1万年経った今でも土偶がカタチを保って(土器だけど土に還ってないのは何故)現代に掘り起こされたのは、縄文人から私たちに向けてのメッセージなのかもしれません。
縄文人って実は神(精霊)に近い存在?
【参考資料】
・土偶を読む 竹倉史人著/(株)晶文社
・第68回企画展遮光器土偶の世界 岩手県立博物館/岩手県文化振興事業団
・よみがえる縄文の秘密 別冊歴史読本/新人物往来社
コメント
コメント一覧 (2件)
黄金の国ジパングが平泉なら、何故東北地方には金塊のカケラもないのだ???
コメントありがとうございます🌸
現在でも金を採掘できる場所はあるそうですが、金採取の採算が取れないので行われないのです。。
平泉が栄えた時代はほぼ陸前高田から採取されていたようですが、秀衡の代で金山は枯渇したそうです。金塊というか、当時は金山に露出してる金を削り取って採取していたので塊ではなく砂金で売買されていたのではないでしょうか?マルコポーロのいう黄金の国ジパングは貿易関係者からウワサで聞いて、そんな黄金伝説が広がったのかな〜と想像します。秀衡の代で金が枯渇したのを信じるなら、本当に黄金の国は伝説と化したのかもしれませんね🥲